事務所長からのメッセージ

     
事務所長 荒木 光二郎事務所長 荒木 光二郎

  道北地域の景気の基調判断を据え置きました(4月)

 皆さん、こんにちは。いつもこのサイトをご覧いただき、誠にありがとうございます。


 さて、4月2日に公表しました「金融経済概況(道北地域)」では、道北地域の景気の基調判断を据え置き、「横這い圏内で推移している」としました。「横這い圏内で推移」との判断は4か月連続となります。最終需要面をみると、設備投資が下げ止まっています(3月短観で初めて利用可能になった2012年度短観の設備投資計画がプラスになったこと等を踏まえ、これまでの「低水準で推移している」から判断を変更しました)。公共投資は月々の振れを伴いながらも、均してみれば横這い圏内で推移しています。住宅投資は持ち直しの動きに一服感がみられています。最大の需要項目である個人消費(観光を含む)は、一部で持ち直しの動きが続いているが、そのペースは鈍化しています。自動車販売が好調であるものの、大型店売上は総じて弱めの動きが続いているほか、観光は持ち直しのペースが鈍化しています。

 この間、生産は強弱区々の動きが続いています。雇用情勢は、改善の動きがみられており、厳しさの程度は幾分和らいでいます。
 景気の「気」の動向を示す本日公表の3月短観結果をみると、道北地域の業況判断D.I.は、▲29%ポイントと前回(12月)短観比幾分(5%ポイント)改善しました。春節をきっかけとした台湾等インバウンド観光客が増加したこと、厳冬に伴う除雪作業が増加したこと、等が寄与したものです。
 3月短観の結果に示される通り、道北地域の景気は、公共投資の減少や円高進行等から先行き視界不良となっていた昨年末頃に比較すれば、不透明感はやや薄れてきたように思います。短観結果には出てきていませんが、一次産業、自動車販売も好調です。ただし、最近公共投資が横這い圏内で推移しているといっても低水準であることには変わりなく、道北地域で高いウエイトを占める建設業を取り巻く外部環境は引続き厳しいものとなっていますし、観光も震災の痛手から完全に回復したとは言えません。また、北海道は家計支出に占める灯油・ガソリンの支出割合が全国に比べて高いため、このところの原油価格上昇が家計の重石となり、消費に悪影響が及ぶことが懸念されます。このように、なかなかすぐに「上向きになった」とはいかないところが、もどかしいところです。

 以下、基調判断の背景について、やや詳しく説明します(下記に載っていない項目については、「金融経済概況」をご覧下さい)。

 まず、公共投資は横這い圏内で推移しています。2月は、上川総合振興局管内で大型工事(富良野盆地地区農地造成工事<3.23億円>)があったこと等から前年を上回りました(+18.2%)。「道北地域」はサンプルが小さく、大型工事があるかないかで公共投資の前年比が大きく振れ、単月の動きで基調を判断するのは困難です。そこで、振れを均し、季節性も調整するために後方12か月移動平均でみると、下図の通り、リーマン・ショック後大幅に増加した後、10年度末にかけて大幅に減少し、その後やや持ち直して最近では横這い圏内で推移していることが読み取れます。また、より長期でみると、下方トレンドがあり、公共投資の減少がこれまで道北地域の景気の下押し圧力になっていたことが分かります。

道北地域の公共工事請負金額推移(後方12か月移動平均)

 次に、消費・観光です。

 ― ここでの観光には、消費に含まれるもの(道北地域の人の観光への支出)以外に、移輸出に含まれるもの(道外、海外等から当地に訪れた観光客の当地における支出)を含んでいます。道北地域は観光業が基幹産業の一つであるため、景気の基調を判断するに際しては、観光の動向が大きなポイントとなります。

 まず、大型店売上高については、弱めの動きが続いています。2月の大型店売上高(△2.3%)は、うるう年で営業日は1日多かったものの、休日が1日少なかったことに加え、悪天候で客足が鈍ったことや気温低下から春物衣料が不振であったことが響き、2か月振りに減少しました。やや長期でみると、下図の通り、昨年秋頃からマイナス幅は縮小傾向にあります。ただ、なおマイナス基調を脱するまでには至っていません。総じて食料品は比較的底堅く推移しているものの、衣料品が振るいません。

道北地域の大型店売上高推移

 次に、自動車販売は堅調な動きが続いています。2012年2月の新車登録台数は、エコカー補助金復活や新車投入効果から、大幅に増加しました。2012年1月に続き、2月も過去5年で登録台数は最多となりました。

道北地域の新車登録台数推移


 最後に、観光です。観光は持ち直しているが、ペースは一部で鈍化していると判断しています。四半期でみると、2011年4-6月を底に、持ち直してきています。月次でみると、1月は春節のタイミングのずれ(今年:1月、昨年:2月)や台湾スキー連盟と富良野スキー場とのタイアップから台湾を中心にインバウンド観光客が増加したことが寄与し、大きく持ち直しましたが、2月は一転減少しました。悪天候(吹雪)もあって国内観光客が減少したことに加え、インバウンド観光客も1月の裏から減少しました。

道北地域の観光動向

 上川総合振興局の「道北地域の観光動向」をみると、層雲峡や富良野・美瑛地区では春節のタイミングのずれからインバウンド観光客は1月に増加し、2月は減少しました。1、2月を合計すればインバウンド観光客はプラス(層雲峡:+2,635人、富良野・美瑛:+1,666人)となり、前月コメントで紹介した通り、「2月に入ってもインバウンド観光客の反動減はさほどでもない」ことが裏付けられました。しかしながら、国内観光客はそれを上回る大幅な減少(層雲峡:-5,011人、富良野・美瑛:-1,912人)となり、結局1、2月合計では微減(層雲峡:-2.2%、富良野・美瑛:-0.6%)となりました。国内観光客の減少は、道外観光客の入込みが鈍い中、悪天候で道内観光客も減少したことによるものです。

層雲峡地区、富良野・美瑛地区の宿泊客動向

 ただし、道北地区のホテル・旅館宿泊客数の2012年1~2月計は、+2.4%と前年を上回りました(ちなみに、2011年10~12月は△2.0%と減少)。このように、現在は微妙な局面にあり、ここ2~3か月ヒアリングをしていても、観光の基調についてまちまちの声が聞かれるところです。

 3月も観光はインバウンド、国内ともあまり活発な動きはみられていない、との声が聞かれました。先行きは、JAL等の旭川―羽田便における機材小型化の見直しの効果にも注目しています。

 住宅投資は、今月は新しい住宅着工戸数の統計が利用できませんでしたので、先月のままです(「持ち直しの動きに一服感がみられる」)。昨年の住宅エコポイント等の政策効果終了前の駆け込み需要の反動がみられています。一方、先月申し上げた通り、足もと消費税の関係もあって、「住宅会社への相談が増えている」、との声も一部で聞かれ、強弱材料の綱引き状態となっています。

道北地域の新設住宅着工戸数推移

 設備投資は、基調判断を従来の「低水準で推移している」から「下げ止まっている」に変更しました。
 今回から初めて利用可能となった2012年度の計画は、製造業における設備更新投資等から+4.3%の増加となりました。年度初の段階では内容が固まらず設備投資に未計上の投資がありますので、徐々に上方修正されていくのが通例のパターンです。また、2011年度設備投資の実績見込額(厳密には、すでに過去の話ですが)は前年度比減少となった(▲8.0%)ものの、前回短観比若干の上方修正(+3.5%)となりました。
 参考までに、設備投資と関連性がある住宅着工床面積(非居住用、12か月後方移動平均)をみると、下図の通り、23年以降緩やかに持ち直しています。
 ― なお、設備投資の基調判断を昨年10月以降「低水準で推移している」(それまでは、「低水準ながらも増加している」)としていたのは、昨年9月短観の段階でも2011年度設備投資計画が前年比マイナスに止まっていたことを踏まえて変更したものです。

主要4市の非居住用建築確認床面積推移

 雇用情勢(改善の動きがみられており、厳しさの程度は幾分和らいでいる)は先月と変更ありません。
 有効求人倍率は、4地区すべてで前年を上回りました。参考までに旭川地区の有効求人倍率をみると、下のグラフにある通り、このところずっと改善傾向が続いていることが分かります。ただし、先月も説明した通り、求人と求職との間に構造的なミスマッチがあること、中小企業を中心に所得環境は引続き厳しいとみられること(例えば、北海道中小企業団体中央会調べの2011年冬季賞与は、前年比▲5.9%)には留意が必要です。

旭川地区の有効求人倍率推移

 最後にオホーツク漁業と貨物輸送量について。第一次産業(農業・漁業)は現在オフ・シーズン中(例えば、2月の紋別、枝幸港の水揚はなし)であり、今月景気判断との絡みで特段コメントすることはありません。ただし、第一次産業の好調が道北地域の景気を下支えしています。また、短観結果でコメントした通り、厳冬で除雪関連の輸送が活発化しました。そこで、参考までに2011年のオホーツク漁業の動向を簡単に振り返るとともに、食料品、除雪関連の荷動きをみることにします。
 オホーツク漁業の水揚数量・金額の推移をみると、下図のとおり、2011年の水揚数量はさほどよくなかった(前年比:△9.0%)ものの、水揚金額は最盛期の秋から年末にかけて高い水準で推移しました(前年比:+12.5%)。

水揚数量・水揚金額

 金額の内訳を魚種別にみると、ほたてと秋鮭のウエイトが高くなっています。魚種別単価をみると、一番ウエイトが高いほたてと秋鮭で単価が大幅に上昇しています。ほたては一昨年の猛暑により本州の稚貝が大量死した影響、秋鮭は太平洋岸における不漁の影響によるものです。このように、2011年は、ウエイトの高いほたて、秋鮭の相場上昇が、全体の水揚金額増加に寄与した年であったと総括することができます。

漁業内訳・前年比

 貨物輸送量(除雪を含む)は、このところ高い伸びとなっています。昨年の農作物の作況が一昨年比総じて良好であったことを映じて食料品が高い伸びを示していることに加え、厳冬の影響で、一部で除雪関連とみられる荷動きが大幅に増加しました。
 ― 当事務所で作成している貨物輸送量の統計には、食料品、木材、水産物等品目別内訳が確認できる計数(全体の約8割)と確認できない計数(全体の約2割)とがあります。また、除雪関連だけの計数はありませんが、除雪関連を含む水産物の計数はあります。これらの最近の推移は、下記の通りです。食料品、水産物(除雪を含む)が高い伸びを示しており、貨物輸送量全体の伸びを押し上げています。水産物は、数量的にはそれ程高い伸びとはなっていませんので、最近の高い伸びは、除雪関連が寄与しているものとみられます。

道北地域の貨物輸送量推移

 製造業は、電子部品関連が増加した(新製品作り込み)一方、紙・パルプは減少(情報用紙の不振等)、合板(計数は1月まで)は横這い(震災の影響一巡<震災特需で後回しになっていた既往受注残の生産完了)等、強弱区々の動きとなっており、全体として横ばい圏内の動きが続いています。

 その他の動きについては、金融経済概況をご覧ください。

 今年は大変厳しい冬でした。大雪で建物の屋根が損壊するという事故もありました。3月末になって吹雪いた日もありました。しかし、木々はまだ雪に覆われているものの、目に見えないところで新芽を育み、来るべき春の準備をしています。春の到来は間近です。
 冒頭述べましたように、建設のウエイトが高い道北地域の場合は、残念ながら景気面で「一気に春が到来した」という訳にはなかなかいきません。短観の業況判断D.I.も、幾分回復しましたが、全国との差は引続き大きなものとなっています。ただ、そうした中でも、2011年度を振り返ってみると、IT産業におけるバックアップ需要の取り込み(ベルシステム24のフィール旭川内への移転と人員増強、コンピューター・ビジネスのデータセンター事業進出の決定)、企業誘致(ヤマザキ)、フィルムコミッション(韓流ドラマ「愛の雨」、映画「北のカナリアたち」の道北ロケ)等々、時流に沿った新たな芽吹きもみられたことは心強い限りです。景気へのインパクトはなお限定的ですが、こうした点の動きが線になり、やがて面となって、将来大きく花開くことを期待してやみません。

2012年4月2日
荒木 光二郎

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