日本銀行には、皆さんが銀行や信用金庫に預けた現金のうち、その金融機関でキープしておく必要のない分が、日々持ち込まれます。日銀では、受け取った膨大な数の紙幣を、一枚一枚丁寧に検査。きれいなものはまた金融機関への支払いに使いますが、汚れたり破れているものは、細かく砕いて処分します(大分ではトイレットペーパーの原料としてリサイクルされています)。
シュレッダーにかけられるお札を眺めていますと、どれだけの距離、どれだけの人の手を渡り歩いた末、ここに戻ってきたのだろうかと、感慨を覚えずにはいられません。一生懸命働いて、くたくたになった紙幣。その長い旅の裏側に、無数の経済的な営みがあったはずです。
もう発行していない古いお札も、たくさん戻ってきます。古札としてどれほど希少価値がありそうでも、日銀に戻ったが最後、問答無用でシュレッダーです。おそらく昔のタンス預金が出てきたものでしょうか、真っさらなピン札の束もしばしば交じっています。せっかく発行したお札が、日の目を見ることなく、連番のまま切り刻まれていくのは、なんとなく残念な気もします。
お金には「価値の貯蔵」という役割もありますが、大事なのはやっぱり「価値の交換」を仲立ちするお役目ではないでしょうか。せっかく世に出た紙幣、皆さんの間の幸せな価値のやりとりを存分に眺めた上で、私たちのもとに戻ってきてほしいと思います。(日本銀行大分支店長)