この夏、学生時代からの友人たちと九州を巡る旅に出ました。すでに30年近く、その時々の濃淡もありながら交わりを続けてきた仲間です。阿蘇の雄大な山並みの中で、あるいは島原の海風に吹かれながら、終始尽きることがなかった語り合いは、互いの苦労や喜びや惑いまでひっくるめてのリスペクトと、不思議な温かさに包まれた、かなり愉快な時間でした。
「人生をつくるのは、旅と本と人との出会いだ」という誰かの言葉が、大分で生活する中で、ますます真実味を帯びてきます。50歳までの歩みの途上で、どれほど多くの人とご縁を頂き、言葉を交わし、影響を受けてきたことでしょう。たくさんの旅で出会う風物と人々、折々にたぐるページに見いだす箴言(しんげん)の味わい、そして信じられる仲間や家族との時間。どれ一つ欠けても、いまの自分ではあり得なかったとしみじみ思います。
モノと情報の奔流に押し流される生活の中で、「所有」や「ひけらかし」による欲望の充足は、豊かさの源泉として説得力を失いつつあると感じます。居心地の良い場所で、他の誰でもない自分の人生を紡ぐ。かけがえのない人と、経験と記憶を分かち合う。その積み重ねの先に、気分よく振り返ることのできる人生があるのではないか。九州の空の広さの下で、そんな確信を手に入れた真夏の旅路でした。(日本銀行大分支店長)