リーマン破綻を契機に、世界が金融危機に揺れていた頃の話です。米ホワイトハウスの横にある、財務省の会議室でふと目を上げると、大きな世界地図が壁に掲げられていました。真ん中にはアメリカ大陸がどんと構えていて、左の太平洋の先には日本から中国、右の大西洋を挟んで欧州やアフリカが描かれています。ああ、米国人にとって、世界はこんなふうに見えているのかと、妙な感心がありました。「米国の中心」を訪れているのだ、という若い気負いが、地図に向けるまなざしまでナイーブにしていたのでしょう。僕の中の「世界のかたち」が、また少し複層的になった瞬間でした。
考えてみれば、僕たちが世界をどう見るかなんて、案外と「どんな地図を見慣れているか」で決まっているのではないでしょうか。子供の頃は九州の天気図ばかり見ていたのに、東京で30年も暮らすと、いつの間にか関東甲信越を中心に世界を認識する癖がついている(と、大分に戻って気付かされました)。
物事を多角的に見ることの大切さは論をまちませんが、実践はなかなか難しい。漠然と「いろんな見方」を心がけるより、「具体的な誰か」がどんなフレームで世界を眺めているのか――その想像力を持つことが近道かもしれません。何せ、地球儀をぐるりと回すだけで、世界の見え方は驚くほど変わるのですから。(日本銀行大分支店長)