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公表資料・寄稿

寄稿等

高く帆を揚げよう

実に長い間、私たちの経済は「動かない物価と賃金」という静かな病に冒され、沈滞した時を過ごしてきました。ここまで長く続いたことは、アタマとカラダに染み付いた「常識」となっています。しかし、世界を見渡せば、資本主義の経済では「物価も賃金も緩やかに上がっていく」のが常識。日本の「失われた30年」は、歴史的にも特異な現象として記憶されることになるでしょう。

もっとも、どうやらそんな時代は終わったようです。

人口が減少し、人手が不足すれば、賃金は上がります。働く人々に支払う賃金が増えるなら、企業が売る商品やサービスの値段も上がるのが当然の成り行きです。動かなかった物価と賃金は、ついに動き始めたのです。

風が吹いてきました。海の匂いを含んだ風は、昨日までの静けさをあっさりと裏切って、帆布を鳴らし始めています。さあ、マストを高く掲げましょう。

帆の張り方ひとつで、吹いてくるものは順風にも逆風にもなります。肝心なのは、風の強さではなく、向きと間合いをどう読むか。潮目の変化を見誤らなければ、荒れた海にも道筋は現れます。

耳を澄ませ、空を見上げ、海の色を確かめる。そうやって時代の風を受け止め、自分なりの帆を張ることができたとき、船は確かに前へ進み始めます。速さは人それぞれ。ただ、進むと決めた船だけが、新しい水平線に出会えるのだと思います。(日本銀行大分支店長)