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【対談 第2回】サクラクレパス会長 日村 貞一 ×
大阪支店長 宮野谷 篤

日付:2014.7.14
於:日本銀行大阪支店

日本を代表する画材メーカーであり、大阪商工会議所の副会頭でもあるサクラクレパス・西村会長に大阪の街や関西経済についてお伺いしました。

大阪の街は驚くほど変わりました。
関西全体で連携を深めれば、もっと関西の良さをアピール出来ると思います

「25年前に勤務していた時と比較して大阪の街は
驚くほど変わりました」

支店長

私は25年ぶりの大阪勤務となりましたが、当時と比較して大阪の街は随分変わったと思います。梅田や天王寺あたりでは高層ビルや商業施設が増えましたし、中之島周辺では日本銀行大阪支店や大阪市中央公会堂などの歴史的建造物を活かして水辺がきれいに整備され、魅力ある地域になったと思います。大阪に長くいらっしゃる西村会長からみて、大阪の変遷と言いますか、良くなったと感じられる点をお聞かせいただければと思います。

「関西全体でさらに連携すれば、もっと色々なことが実現でき、関西の良さをもっとアピール出来ると思います」

西村会長

再開発など良くなった点は色々ありますが、道路網が整備されて関西全体として非常に便利になった印象があります。例えば、第二京阪道路が出来たことで京都に行くのも早くなりましたし、名神高速道路がストップしても代替できるようになりました。第二阪奈道路が出来て奈良までも非常に早く行けるようになりました。どこへ行くにも、早く・確実に行けるようになったと思います。本音を言えば、それぞれの街がさらに連携すれば、もっと色々なことが出来て、もっと関西の良さをアピール出来るのではないかと思います。

西村 貞一(にしむら ていいち)

大阪商工会議所 副会頭

株式会社サクラクレパス 代表取締役会長

昭和43年慶應義塾大学商学部卒業。

コクヨ株式会社勤務を経て昭和46年3月株式会社サクラクレパスに入社。昭和56年取締役社長就任。平成26年より現職、代表取締役会長就任

支店長

今回、大阪に引っ越してきた当日にあべのハルカスに登ったのですが、京都、神戸、奈良だけでなく淡路島や四国、関西空港の方まで遠く見渡せて、改めて歴史的にも文化的にも魅力的なエリアが集積していると感じました。それぞれに存在感があるのですが、経済的にも文化的にも、関西は面として一体的になってきているのでしょうか。

西村会長

一体的になっている面もありますが、それぞれ特色はあります。神戸は昔からハイカラな感じで、大阪は商業、京都は歴史、奈良は素朴さと古い趣があって、それぞれ色々な特色がある。でも、それらがきちんと連携が取れることが重要です。観光を例に取っても、大阪だけを紹介するのではなく、あるテーマを設定して、例えば、歴史の古い順に、難波宮(大阪)から平城京(奈良)に行って、平安京(京都)と順番に巡ることで、日本の歴史が繋ってみえるような観光の仕方もあると思います。

支店長

なるほど。そういう観光の仕方も良いですね。私も先日、難波宮へ散歩に行ってきたのですが、実は、難波宮は平城京よりも古いのですね。

西村会長

そうです。さらに広域でみれば、例えば大河ドラマの「黒田官兵衛」で考えてみると、姫路(兵庫)から始まって京都、安土(滋賀)、それから高松(岡山)までが官兵衛の活動エリアですから、それらを一つの地域として順番に見て楽しむのが訪れた人にとっても理解し易いと思います。地元の姫路だけをPRするのでなく、歴史の繋がりを考えて、より魅力的な形で連携すべきだと思うのです。

難波宮跡公園(なにわのみやあと公園)

大阪市中央区法円坂の一体に広がっている史跡公園

大阪城と近代高層ビルの調和
(出所)Wikipedia

支店長

私は散歩や絵を描くのが趣味でして、観光や絵を描くのにお勧めのスポットがあればお伺いしたいと思います。関西以外の出身者からすると、先ほどの難波宮の話などは考えつかないことです。

西村会長

中之島周辺も良いのですが、城見から大阪城や中之島方面を見渡すと、川が流れていて、大阪城の森があり、そこに近代的な高層ビルも調和していて、歴史的なものから最先端のものまで一望できますので、城見は非常に良い場所だと思います。特に、桜のシーズンが一番きれいですね。水上バスに乗って1時間くらい川を遊覧するもの良いです。

それから上町台地も良いですね。特色のある坂が7つ(天王寺七坂)ありまして、愛染坂とか天神坂とかがあります。生國魂神社から南の方へ、坂を上がったり下がったりしながら一心寺まで抜けて、あべのハルカスを臨む、というのも大阪の古い街並みが楽しめて非常に良いと思います。

愛染坂

天神坂

西村会長:関西経済の活性化のためには、経済特区に選ばれたライフサイエンスの分野をしっかりすることだと思います。

支店長:関西は電機産業が集積している地域ですので、今は海外の方が進んでいる医療機器の分野にも期待したいです。

支店長

西村会長は、大阪商工会議所の副会頭も務められ、財界活動で色々な提言もされていると思いますので、関西経済の活性化に向けた思いを伺えればと思います。

西村会長

既に市場があるという意味では、ライフサイエンス、医薬、医療機器が有望だと思います。ただし、これらは認可が伴う業界ですので、大阪でも簡単に認可が取れないと発展しないと思います。現状では官庁のある東京の方が便利ですから。そういう観点からすると、関西は、今回、経済特区に選ばれた訳ですから、規制緩和も含めて業界の方にしっかり提言していただくことが重要だと思います。ライフサイエンスは、大阪だけでなく神戸や京都を含めた地域の強みになっていくと期待しています。

支店長

関西はもともと電機産業が集積している地域でもありますから、今は海外の方が進んでいる医療機器の分野に関しても期待したいところですね。

西村会長

大型の検査機器などは、圧倒的なデータの蓄積が必要ですから海外の先行者を超えていくのは相当な努力が必要ですね。

支店長:それから関西は外国人観光客もすごく増えています。

西村会長:数年前はガラガラだった大阪城のバスターミナルが外国人向けのバスで溢れています。更なる成長へ向けて受入体制を整備する必要性を感じます。

支店長

関西では外国人観光客がすごく増えています。関西国際空港におけるLCC国際線の発着便数も成田国際空港よりも遥かに多いですし、円安進行も貢献しているのだと思いますが、近年の日本企業の東南アジアへの進出もあって、親日派が増えたような印象があります。

西村会長

ビザの発給緩和も大きな影響があると思います。弊社は、本社が大阪城の近くですが、大阪城にあるあの大きなバスターミナルが、外国人向け観光バスで溢れているのを目にします。2年ぐらい前まではガラガラで、そんな様子はなかったので、随分増えたなと実感します。同時に、大阪に外国人観光客をもっと呼ぼうと思うと、駐車場などを十分用意しないといけません。例えば、電気街で有名な日本橋にバスターミナルが十分に確保されれば、バスを停めて家電を購入する人も多いのではないかと思います。日本橋から一駅離れた長堀には駐車場がそれなりにありますので、現状は、そこが起点となっていると思います。

支店長:首都直下地震が懸念される中で、経済を始めとした重要な機能のバックアップが大阪に期待されています。

西村会長:当社は関東大震災で被災して大阪に移転してきた経緯があり、それだけに首都圏被災時のバックアップの重要性を感じています。関西にそうした企業は多いと思います。

支店長

東京一極集中が進む中で、首都直下地震が懸念されていますので、首都圏被災時に経済を始めとした重要な機能が失われないよう大阪でバックアップすることが期待されています。こうしたバックアップ機能も関西経済のテーマの一つになると思いますがいかがでしょうか。

西村会長

重要なテーマだと思います。実は当社は、遥か遡れば東京で創業した企業だったのですが、関東大震災で安定した生産が困難となり、大阪へ移転して来た経緯があります。関西にはそういう企業は多くあると思います。弊社は通販事業の配送センターも、関西と関東の2ヶ所に設置しています。東日本大震災の際には、関西の配送センターに東日本の受注も集結して日本海回りで配送したため問題は起こりませんでした。

支店長

大変興味深い話ですね。日本銀行も日々膨大な金額の決済をしていますので、それが滞ると経済的にも社会的にも大変混乱します。そのため、コンピュータシステムのバックアップを大阪に設置していて、東京で何か起きた時に切り替えるようにしています。それから、東京の本店が被災した際に大阪支店である程度の本店業務をこなせるよう定期的に訓練を行っています。最近は民間金融機関の方々とも議論を重ね、金融界で協力しながら大阪のバックアップ機能を高めていく活動もしています。

西村会長

国全体のことを考えた時にバックアップは絶対に必要だと思います。ただし、個社の経営から考えるとコストも考慮しないといけない。当社の場合、配送ボリュームが相応にあるので配送センターを2つに分けることが出来ますが、ボリュームがなければ1ヶ所でやらざるを得ない。実際、コンピュータシステムの方はまだ大阪しかないです。東京にコンピュータを置くだけでもコストがかかるし、運用面でも大阪でやっている処理をリアルタイムで東京にも記録して何かあったらすぐ東京で運用できるようにするのはコスト面で難しいという判断になりました。

支店長

運用面という発想は重要ですね。金融界でも、最初はバックアップシステムを大阪に置くことから始まったのですが、最近は、有事にしか動かないのはもったいないということで、仕事の一部を大阪に移してきて、平時から大阪でも仕事をするという「デュアル・オペレーション」の方向に変わりつつあります。効率性と両立させる方向に変わっているということですね。

支店長:少子高齢化で新たな需要発掘が重要になっていますが、子供との関わりという点で創業時の苦労やエピソードをお伺い出来ればと思います。

西村会長:日本の子供が自由な発想で絵を描けるよう研究を重ね、重色・混色が可能な「クレパス」を開発しました。日本発の数少ない洋画材だと思います。

(出所)サクラクレパス

支店長

最後に、日本は少子高齢化の時代に入るなど、新たな需要発掘への取り組みが重要な局面に入っています。貴社は子供と関わりの深いビジネスを続けている訳ですが、まずは創業時の苦労やエピソードなどをお伺い出来ればと思います。

西村会長

弊社は大正10年に「クレヨン」を生産する会社として創業しました。第一次世界大戦が終わって日本もそれなりに豊かになったころです。当時フランスへ留学した山本鼎という画家が、「日本とフランスでは子供の教育に大きな違いがある」ことを教えてくれました。当時の日本で「絵」と言えば、「臨画」という絵のお手本通りそっくりに描くことだったそうですが、子供は思いのままに絵を描くことが楽しいのであり、もっと自分の気持ちを表現するのが絵ではないかと。山本先生は、そういう風に学校教育を変えていく必要があると考え、自由画運動を始められたそうです。その時に、絵を描く道具として、当時は色鉛筆があれば上等な方だったのですが、クレヨンの方がもっと豊かだということで、クレヨンが急速に普及し始めたのです。それで、弊社もクレヨンの製造を始めたのですが、クレヨンは固いほか蝋がすべって重色や混色するのが難しいため表現力が弱い。そこで重色や混色が出来るような柔らかいクレヨンを研究しましてクレパスを完成させた訳です。

支店長

「クレヨン」と「クレパス」の違いはそういうことなのですね。

西村会長

そうです。「クレパス」が登録商標となっていますが、海外では「オイルパステル」と呼ばれていて、日本で開発された洋画材料としてはオイルパステルが唯一のものだと思います。

西村会長:私の社長時代は少子化との戦いであったといっても過言ではありません。市場開拓のため海外企業を買収し、学校向けの通販にも取り組みました。

支店長:ある種の「流通革命」を取り入れられたということですね。

支店長

創業以降、時代の変化に合わせてビジネスも多角化されていると思うのですが、日本も少子化が進む中で、新規需要の獲得に向けた取り組みなどはいかがでしょうか?

西村会長

私が社長を引き継いだのは第二次ベビーブーム世代が小学校に入学した1980年頃ですので、子供向けの需要に陰りが見え始めており、私の社長時代は少子化との戦いであったといっても過言ではありません。筆記用具に注力しようということで名前ペンの「マイネーム」を開発しました。また、海外需要の取り込みや大人向け商品に注力するということで油絵に力を入れました。当時から油絵の国内ブランドを持っていましたが、それほど知名度が高くなかったので、しっかりしたブランドが必要ということで、オランダのロイヤル・ターレンス社を買収しました。それでも、なかなかしんどい状況が続いていたので、2000年頃からは学校向けのカタログ販売を始めました。これが現在もそれなりに当社の収益を支える柱の一つになりました。学校の先生方はカタログを見て明日の授業をどうしようか考えられ、必要な物をカタログで選んで注文します。翌日には商品が確実に届くところが評価されています。

支店長

国内ではある種の「流通革命」を取り入れられたということですね。海外需要の取り込みで注意されたことはありますか?

西村会長

西洋では絵具のチューブは大きいのが普通なので、日本の小さいチューブは全然売れない。それで大型にしています。アジアだけは例外で日本と同じ小型チューブです。

支店長

小さい絵具は日本特有というか、世界からみるとある種のガラパゴスだったのですね。日本は家が小さいから場所をとるものは置けないし、大きいのを買って途中で飽きてももったいないと考えるのが普通ですから。

西村会長

そうです。特にアジアの場合は、豊かさも関係します。お手頃価格の小型チューブがちょうど良いのだと思います。

支店長

海外企業の買収後に、マネジメント面で重要なことは何ですか?

西村会長

海外企業のトップの外国人との間でしっかりとした信頼関係を築くことだと思います。

店内見学の様子

貴賓室(旧館)

お札の偽造防止技術を体験

日本銀行には、為替の安定のほか、安心して借入が行えるよう金融システムの安定をお願いしたい。

支店長

最後に日本銀行に期待することをお伺い出来ればと思います。

西村会長

当社も材料の輸入や商品の輸出がそれなりにあるので、日本銀行の政策からは特に為替相場の変動を通じて影響を受けます。引き続き、安定した為替の水準を保つよう意識していただけるとありがたいです。それから金融システムの安定です。日本のバブル崩壊後の金融危機時の苦しさがトラウマになり、未だに借入することに恐怖心があるオーナー企業さんは少なくないと思います。

支店長

わかりました。本日は、多岐に渡って興味深いお話を聞かせていただきありがとうございました。

西村会長

こちらこそありがとうございました。