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【対談 第4回】三輪そうめん山本 社長 山本太治 ×
大阪支店長 宮野谷 篤

日付:2015.7.13
於:三輪そうめん山本(奈良県・桜井)

そうめん発祥の地で享保2年(1717年)の創業以来、代々続く老舗そうめんメーカーの社長であり、奈良経済同友会の代表幹事でもある三輪そうめん山本・山本社長にお話を伺いました。

支店長:日本人と小麦の関わりも深いですよね。

山本社長:36時間かけて手延べで作るそうめん本来の味を大事にしていきたいです。

支店長

まずは、三輪そうめんの話題からお伺いします。僕は麺類が大好きなのですが、その中でもそうめんが一、二を争うほど好きです。日本人といえば米、というイメージがありますが、日本人と小麦の関わりも深いですよね。

山本社長

そうですね。1300年前の仏教伝来とともに、小麦を育て、粉にして、保存食にするという文化が日本に初めて入ってきて、奈良時代にここ三輪の地からそうめん作りがはじまりました。江戸時代に、文化文政の伊勢詣など人々が藩を超えて移動するようになり、三輪で米が不作のときにそうめんが作られているのをみて、米の裏作で小麦を育て、そうめんを作るということが全国に広がっていきました。

支店長

奈良発祥のものはたくさんありますけど、そうめんも奈良発祥なのですか。

山本社長

日本中のそうめんは三輪から始まっています。平安時代には、天皇家に献上されていたほか、七夕にそうめんを食べると熱病にかからないと考えられていたことから、貴族たちの間で七夕の贈り物としても使われていました。実はこれが中元のはじまりでもあります。近代に入ると、百貨店を中心に高級贈答品として広がり、関西だけでなく東京でもそうめんが中元の中心になっていったのです。

支店長

私も仲人への中元で三輪そうめんを贈っていました。このあたりで小麦も生産されていたのですか。

山本社長

戦前は米の裏作として作られていましたが、戦後は上質な米国産小麦が安価で大量に入ってくるようになり、そうめん作りにも使われるようになりました。現在でも、県内生産の小麦は一部ありますが、全国的に北米産の小麦粉が主に使われています。また、ボルドーのワインと同じように、畑によって質に違いがあるので、製粉メーカーと協力しながら、複数の小麦をブレンドして一定の味が出せる小麦粉を作ることもやっています。

山本 太治(やまもと たはる)

1957年、桜井市生まれ、東大寺学園高校、名城大学商学部卒。1983年、江戸時代から続く家業の「三輪そうめん山本」に入社。1994年、父の太一社長の死去に伴って社長に就任した。奈良経済同友会代表幹事、社団法人関西ニュービジネス協議会副会長なども務める。

支店長

そういえば、こちらの売店では北海道産小麦を使ったそうめんも販売されていました。

山本社長

ここ数年は、北海道産の上質な小麦が出荷されるようになりましたので、商品化しました。コストの面からは多少割高ですが、国内産にこだわる方には大変好評でして、そういったニーズにお応えすることも大事だと考えています。

支店長

御社はそうめんで卓越したブランドを確立されていますが、そうめん以外にも小麦を原料とする様々な商品を作っていらっしゃいますよね。例えば手延べパスタとか。

山本社長

最初からヒット商品が出ることはないですから、まずバッターボックスに立って、新商品を作るということは非常に大事だと思います。パスタに使われるデュラム小麦を使って手延べそうめんの製法で作ると、非常に旨味のあるパスタができるのです。通常スーパーなどで売られているパスタはあまり熟成時間をかけずに作られているのですが、手延べそうめんと同じように36時間かけて作ると、熟成によって麺そのものの旨味が引き出されるのです。麺自体が美味しいことが大事ということから手延べパスタ麺を考えたのですが、最近はミシュランの三つ星店でも使っていただいていて、とても好評です。

支店長

そうめんも機械で作られるものが多くなっていますが、御社は手延べにこだわっておられますね。

山本社長

最近は製麺方法も多様になり、機械を使って省力化しながら作る方法もあって、機械麺も良いものになってきていますが、それに勝る力を手延べそうめんはもっています。当社では熟成をしっかり見て、天気とも相談しながら36時間かけて手延べで製麺することで、引き出されるそうめん本来の味を大事にしていきたいと考えています。

支店長

写真で見せていただきましたが、手延べそうめんはグルテンの並び方も均一になっていますね。やはり時間をかけて作られたそうめんはコシがあって美味しいです。

山本社長:売り場でお客様に弊社商品をご指名いただけるように、モンドセレクションに出品しています。

支店長:商品について知らない人を惹き付けるものとして、非常に効果的だと思います。

支店長

先代や先々代が会社を発展させてこられる過程で製造法や販売ルートなどで様々な工夫があったと思うのですが、そうしたものが相当確立されていたところで社長に就任されたのではないかと思います。社長に就任されてからのご苦労話やご体験談がありましたら、聞かせて頂けますでしょうか。

山本社長

36歳のときに社長になって今年で21年になります。社長になる1年くらい前に、先代の体調が悪いということで当地に戻ってきましたが、それまで東京で営業畑を歩いていましたので、社長教育などはほとんど受けていませんでした。バブル崩壊後は贈答品が自粛されるような時代になりましたので、売上もバブルの頃と比べて少なくなっています。

支店長

売上の比重としては、百貨店の売上のほうが大きいのですか。

山本社長

昔は百貨店を中心とする外販が多かったのですが、私はインターネットや店舗での直販に注力しており、現在はだいたい半々といったところです。先ほど申し上げましたように、売上総額は減少していますが、社員たちに喜んでもらうためにも利益を大事にしたいと考えており、その点では改善されたように思います。

支店長

インターネット時代にもうまく対応されているのですね。

山本社長

外販についても、多くのそうめんブランドが存在する中で、売り場でどこのメーカーのそうめんかをお客様に認識していただくことは難しいという状況にあります。こうした中で「三輪そうめん山本」をご指名いただけるようにしていこうということで、弊社のそうめんのうち、「白龍」と「白髪」をモンドセレクションに出品しています。当初は社内でだいぶ反対もあったのですが。

支店長

モンドセレクションというのはどのようなものなのですか。

山本社長

高品質の飲食料品などを対象とした国際的な賞で、味や原材料、パッケージといった総合審査で評価が行われます。賞の中でも最高金賞、金賞、銀賞、銅賞といったカテゴリーに分かれていて最高金賞というのは相当ハードルが高いのです。弊社の商品は、初年度は金賞、二年度目からは継続して最高金賞をいただいており、今年で6年目になります。こうした第三者認証も、お客様に安心して購入していただくための一つのきっかけになればと思っています。

支店長

レストランや金融商品の選択で、権威ある格付けが重視されているのと同様ですね。特に商品について知らない人を惹き付けるには、分かりやすく目に見える形で品質を表すものとして非常に効果的だと思います。何しろ食べてみないと良さが分からないですから。

山本社長

まず食べていただくということが最初のハードルですので、そのハードルを超える一助になればと思っています。

支店長

食べていただくという点では、こちらには売店に加えて飲食店もあるのですね。

山本社長

「ここで食べさせてくれへんのか」というご要望がありまして、最初は12畳の和室で少しお出しする程度だったのですが、徐々に拡張しまして、いまやGWやお盆あたりのピークで、一日あたり600食ぐらい販売する規模になっています。また、他の会社と違った取り組みとしては、社員全員が売店あるいは飲食店のローテーションに入っています。

支店長

一時的な研修ではなく、恒常的にそういう勤務体制にしているのですか。

お食事処「三輪茶屋

山本社長

はい、ずっとそうしています。普通は部署が変わらない限り、製造の人たちは製造だけをやりますよね。うちでは基本的に社員が接客、サービス、販売をすべて行うようにしています。そうすると、製造している人は自分たちが製造したものを買って頂ける喜びを知ることができて、日ごろの仕事や商品に反映されるのです。

支店長

様々な取り組みをご紹介いただきましたが、いま社長が一番力を入れて取り組まれていることは何でしょうか。

山本社長

一般のご家庭で調理をしない時代になっていったときにどうするかということを常に考えています。そうした時代になった場合でも、調理したいと思うようなそうめんや、電子レンジで調理できるような商品を開発しています。調理済みの食品がたくさん出てきていますので、現在のそうめん作りを続けながら、私どものビジネスモデルをどのようにしていくかというのがこれからの一番大きな課題ですね。

支店長

なるほど。日本の食に対する世界的な関心も高まっているのではないかと思いますが、そうめんの輸出にも取り組まれているのでしょうか。

山本社長

国際線の機内食としては弊社の麺類をたくさんご利用いただいています。ただ、そうめんをアジアでもっと売ったら良いというお話はよくいただくのですが、そうめんを冷やして食べるという考え方ができるのは、水道から安全な水が出てくる日本だからなのです。確かにお寿司やお刺身という日本発の食品が中国本土を含む世界中で食べられるようになっていますが、日本人が衛生面での安全性をきちんと確保する方法を教えたことでそうした状況が実現している訳です。

支店長

輸出が難しいということですと、円安はそうめん業界にとってコスト高要因になるのでしょうか。

山本社長

そうですね。包装材を含めて少しコスト高になっています。ただし、今年販売しているものは昨年作ったものですので、小麦の値上がりについてはタイムラグがあります。また、電力料金などの値上げも製造原価の中では考慮せざるを得ません。もっとも、ご贈答用で買われるお客様は価格水準を基準にして選ばれますので、値上げで対応するというよりも、束数を調整するといった形になっていくのではないかとみています。また、近々来るであろう消費税の再引き上げとその影響に鑑みて価格戦略を考える必要があると思っています。

支店長

私どもはデフレ脱却を目指しており、良いものを適正な価格で販売できるような経済状況にしていきたいと思います。

支店長

山本社長は、奈良経済同友会の代表幹事も務めていらっしゃいますが、奈良県経済については、どのようにみていらっしゃいますか。

山本社長

産業に関しては、県知事が一生懸命企業誘致に注力されており、だいぶ誘致に成功してきているところだと思います。もっとも、奈良県で活動されていた企業の撤退などもありますので、まだ奈良県経済が全体として回復する状況には至っていないとみています。ただ、観光についてはホテルの稼働率が上がっておりまして、1988年のなら・シルクロード博覧会や2010年の平城遷都1300年の稼働率を上回っています。

支店長

それはやはり外国人の宿泊客が増えているからでしょうか。

(出所)Wikipedia

山本社長

そうですね。ただ、まだまだ外国人観光客は日帰りも多いです。以前と比べると滞在時間は長くなっていますが、奈良により長く、夕食を食べるところまで滞在していただくようにならないと、本格的な消費にはつながらないでしょうね。そこで、より長く滞在していただけるように色々と取り組んでいます。例えば、キリン・ディアジオ社が主催するバーテンダーの世界大会「ワールドクラス・カクテルコンペティション」において、奈良県から日本大会の優勝者がこの5年間で3人出ており、そのバーテンダーを目当てに海外からお客様がお越しになっているのです。こうしたお客様には食事付きで夜まで滞在していただいていますので、これからもこうした取り組みは続けたいと考えています。また、9月5日には「なら食と農の魅力創造国際大学校」にオーベルジュがオープンします。

支店長

奈良県ではホテルが足りないといった話もよく聞きますが。

山本社長

県のほうでもホテルの誘致などを積極的に進めておられるようです。

支店長

奈良には、傑出した歴史がありますし、美しい自然もたくさんあります。特に4月の吉野の桜は素晴らしいですよね。外国人のみなさんがキャリーバッグを引いて坂を上っているのを見ました。

山本社長

奈良の歴史についてはよく言われるのですが、ずっと奈良にいる人にとっては当たり前になってしまっていたところがあるかもしれません。吉野の桜も素晴らしい財産ですが、もっと長く滞在していただけるような工夫ができるのではないかと思います。もっとも、奈良の魅力をより積極的に発信していこうという動きが出てきていますので、良い方向に進んでいくのではないかと思います。

支店長

奈良には豊富な観光資源がある一方で、景観を守るために高さ制限などの厳しい規制もあると思いますが、そうした規制を一部緩和して、新しいビジネスをやってみたいという人達を引き付ける余地もあるのでしょうか。

山本社長

奈良県を巡る議論では、しばしば奈良市と奈良県を区別しないで議論されることがあります。確かに奈良市では厳しい景観保護が行われていますが、全県的に建設規制が厳しい訳ではありません。

支店長

なるほど。奈良市以外では、景観を保護しながら、積極的にホテルや企業などを誘致することができるのですね。

山本社長

起業家への補助金の申請は奈良県が一番少ないという話を聞いています。そうした補助金などをうまく使いながら新しいビジネスにつなげていくということも必要ですね。

支店長

その面では、地方金融機関の果たす役割も大きいと思います。本日はありがとうございました。